第2章 伊達の流儀
一時でも、尊厳を棄てて身を任せてしまおうと考えてしまった自分を恥ずかしく思う。
私はこんなところで死ねない。
私が諦めてしまっては、私を生かそうと動いてくれた二人に申し訳がたたない。
「くっ・・・松永、テメェ何かしやがったなっ・・・」
「体が辛いだろう。卿が無防備に通ってきたこの屋敷の入り口には、毒香が焚いてある。じきに卿の体は動かなくなるであろう。
無意味に偽善を振りかざす伊達の流儀とやらが、己の身を苦しめていることに気づかずにいる卿らは・・・実に哀れだ」
私は戻る。戻ってみせる。
松永など、恐れることはない。
男など、女などと関係ない。
──私は間接を1本、馬鹿になるくらいに手首を曲げて、この身を縛りつけている縄からするりと右腕を抜き取った。
その痛みたるや、先程の陵辱などとは比べ物にならない。
しかし、それよりもずっと心は痛くなかった。
この拘束から逃れたいという前向きな気持ちは、痛みなど感じさせない。
自由になった右手でうなじに隠していた苦無(くない)を取り出すと、素早く縄を切った。
「松永久秀! お前に、独眼竜を語る資格などない!」
独眼竜の、伊達の流儀は、お前などには分からぬ道理だ。
どんなときも仲間を守り、無駄死はさせない。
卑怯な者を許さない。
それは、今まで独眼竜が培ってきた、一国を統べる者としての道理。
それを曲げないからこそ、皆が彼についていくのだ。
そんな彼の精神を、誰にも愚弄させはしない。
私はそれを、許さない。