第2章 伊達の流儀
振り向いた松永は、怪訝な表情をするでもなく、うっすらと笑っている。
「「紫乃!」」
「紫乃さん! 来ちゃいけねぇ!」
「・・・これはこれは、思わぬ客人だ。今から竜の爪を差し出すよう文を届けに遣わすところであったが・・・君が届けてくれるのかな?」
私が女だからか、武田の者と分かっている様子なのに、まったく警戒していない。
「・・・その四人を解放してほしい。」
そして絞り出した言葉に、松長はフッと笑って答える。
「竜の爪を差し出せば、すぐにでもそうしよう。」
・・・嘘だ。
この男の瞳は、嘘と欲望が渦巻いている。
六爪と引き換えにしても、この四人を助ける気などないのだろう。
もう、この男が耳を傾け、四人を助けられる方法は、一つしかない。
「・・・私が代りに人質になる。四人を解放し、私を捕らえろ。」
「紫乃さん!? 何言ってるんスか!」
これなら、四人を解放するには一番手っ取り早い。
伊達の兵が捕らわれている限り、さすがの独眼竜も悩ましく思うはずだ。
しかし捕らわれているのが武田の私であれば、独眼竜は悩む必要などない。
私には、独眼竜にとって人質としての価値すらないのだから。
あとは私が自力で抜け出せばいいことだ。
四人が人質でさえなければ、きっと私の力で脱出できる。
そうすれば、とりあえずは四人を今救うことができる。
しかし私がそう言うと、松永は解せぬといった様子で首をかしげた。
「それはなぜかな?」
「お前の言うとおり、その四人の兵を人質にしたところで、独眼竜は刀を差し出しはしない。だが私なら話は別だ。私を人質にすれば、おそらく六爪は手に入るだろう。」
「・・・? 君は独眼竜にとって、刀を差し出すに値する人間だとでもいうのかな?」
「そうだ。」
考えろ。考えろ。
考えるんだ。
私が人質になれる方法を。
この松永を欺ける言葉を。
「私は、伊達政宗の女だからだ。」
これしか、ない。