第2章 伊達の流儀
「・・・独眼竜。大丈夫か」
呼び掛けてみても、反応しない。
伏せられた目は、いつもの勇ましい表情とは違う、涼やかな青年のようだ。
なんだかここにいることが照れ臭くなってきた私は、黙っているのが辛くなってきた。
「・・・まったく。片倉殿が心配しているぞ。なぜ早く種子島のことを言わなかったのだ。早く目を覚まして、安心させてやらねば腹を切ってしまいそうだぞ。しかしいつもそうして眠っていれば、少しは・・・」
照れ隠しのために立て続けに喋ったところで、私は声が出なくなった。
独眼竜の目が、開いていたからだ。
な、な、な、なっ・・・
じろりと睨むような目で、こちらを見ている。
「子守歌は終わりか?」
「・・・なっ、なんだお前、起きているなら起きていると、早く言えっ・・・!」
「夢ん中までやかましい声が聴こえてきやがったからな。嫌でも起きる」
「べ、べべべつに一人言だ! 眠っていると思ったからっ・・・」
あまりの恥ずかしさに顔を熱くしていると、独眼竜は無理矢理体を起こそうとし始めた。
「ま、待て、まだ寝ていろ。」
さすがに痛そうに顔を歪ませていたので、彼の背中に手を添えて支えてやると、珍しく独眼竜はそれを受け入れて、少しだけ私に体を預けてきた。
「・・・俺はどれくらい眠ってた?」
「一晩だけだ。浅井とやりあったのは昨日のこと。・・・丈夫な体だな」
「当り前ぇだ。俺を誰だと思ってやがる」
そうは言いつつも顔を歪めていて、口には出さずとも辛いのだろう。
押さえている腹部の包帯にはじんわりと血が滲んでいる。
「・・・生きてて良かった。」
つい、思っていたことが口に出た。
すると独眼竜は表情を変えずに目を逸らし、私の腕からさらに体を起こした。
らしくないことを言ってしまい気まずくなった私も、慌てて話題を変える。
「ここは甲斐だ。片倉殿はお館様のところへ行っている。昨日はずっと心配して側を離れなかったんだぞ。待っていろ、今皆を呼んでくる」
「・・・ああ」
触れていた独眼竜の背中は、何か大きなものを背負っているように固かった。
鍛練の証の傷があちこちにあって、体温も熱い。
広間を離れても、その感覚が、手に残っていた。