第2章 伊達の流儀
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私はまた独眼竜の眠っている広間へと戻ると、片倉殿が険しい顔で側に座っていた。
「片倉殿」
「・・・紫乃か」
「っ・・・」
・・・片倉殿は、私を名前で呼んでいただろうか。
思わず固まってしまった私に、片倉殿は怪訝な表情を見せた。
「どうした?」
「いやあの・・・私の名を覚えていたのだと、驚いてしまった」
「・・・呼ばずにいただけだ。お前ぇに気を許しちゃならねぇと思っていた。・・・が、お前ぇは伊達の兵を守り、こうして甲斐にまで迎え入れてくれた。今までのこと、申し訳なかった。礼を言う」
「・・・片倉殿・・・」
こんな状況でも、人への忠義を忘れない片倉殿に、私は胸が温かくなった。
優しい人だ。
だからこそ、独眼竜の側を離れずにいるのだ。
自分のせいだと、責めているから。
「片倉殿、少し休んだほうがいい。独眼竜のことはしばらく私が看よう。・・・いつまでもそのような、今にも腹を切りそうな顔をしていては、心配になる」
「・・・」
・・・まさか図星なのだろうか?
「そ、そうだ、お館様は片倉殿と話をしたがっていた。顔を見せて差し上げてくれ。ほら、片倉殿」
「・・・分かった」
片倉殿の暗い表情は晴れるわけもなく、それでもここにいても自分を責めてしまうだけだろう。
彼を広間から出すと、とたんに静かになった。
それはそうか、いつも嫌味を言ってくるはずの独眼竜が、今は床に伏せっているのだから。