第1章 奥州に忍ぶ
──「お館様!! 幸村様!! おられますか!!紫乃でございます!!」
武田に着くなり、私は挨拶もせずにその門をくぐった。
傷ついた伊達軍を中に入れ、そして意識のない独眼竜を片倉殿と抱えながら大声で叫んだ。
すると、音もなく木の葉が舞い、城の入り口に佐助様が現れた。
「佐助様っ・・・!」
私はあまりの安堵に、佐助様の胸の中に駆け寄っていた。
「佐助様っ、佐助様っ・・・あの、独眼竜がっ・・・」
「紫乃、大丈夫。こっちだ。一通り様子は見てたから。お館様にはもう話は通してある」
「佐助様っ・・・」
「落ち着いて。右目の旦那と一緒に、ほら、竜の旦那を広間に運んで」
「は、はいっ・・・」
佐助様は慌てふためく私を見て呆れてしまったかもしれないが、私は冷静ではいられなかった。
独眼竜から血がしたたり落ちるたびに、彼の命が削られていくように感じたのだ。
そう思うと、なぜか、胸が締め付けられるように辛かった。
「片倉殿・・・」
でもきっと、それ以上に片倉殿や伊達軍の皆のほうが辛いはずだ。
私は辛さを分け合うように、片倉殿の手を握った。
「・・・政宗様っ・・・」
そう呟いた片倉殿は、この手を握り返すことはなかったが、振り払うこともしなかった。
代わりに、広間にて治療を受ける独眼竜の隣に、深く深くうなだれて座り込んでいた。
奥州で伊達政宗と出会ってから、私はまだ数日だ。
その竜のような研ぎ澄まされた蒼い背中は、まだ見慣れない。
この男は自分勝手で、己の道を行くだけの男。
それでも、こんなに仲間に思われて、また仲間を大事にしている。
何より、幸村様の闘志に火をつけた好敵手。
私がこんなに胸が苦しいのは、この男はきっと、今死んでしまっていいような男ではないのだ。
死なないで、独眼竜。