第1章 奥州に忍ぶ
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来た道を引き返すが、思った以上に傷ついた者がいる。
このまま奥州まで戻ったとして、この者たちの手当ては間に合うのだろうか。
自分の足で駆けている私は先頭の独眼竜に近づくと、走る馬の足下から、彼に聞こえるように言った。
「独眼竜! 甲斐へ寄ろう! お館様は傷ついた者の手当てをして下さるはずだ!」
「・・・」
他国の情けを受けるのがそんなに嫌なのか。
奴は腕を組んで馬に揺られたまま答えようとしない。
「独眼竜。背に腹は代えられぬはずだ。仲間を思うならば、私の話を受け入れてくれ。」
「・・・」
それでも返事をしようとしない独眼竜に、今度は片倉殿が語りかけた。
「政宗様、ここは甲斐を頼りましょう。」
「・・・」
「・・・政宗様?」
・・・独眼竜?
なんだか様子が・・・
「なっ・・・!?」
次の瞬間、走る黒い馬から、独眼竜の体はふわりと宙に浮いた。
そのまま馬だけが先へ進み、独眼竜の体は後ろへ落ちていく。
「政宗様!?」
「独眼竜! うわっ・・・!!」
ちょうど独眼竜の馬の後ろを走っていた私に、その体は容赦なく落ちてきた。
突然のことにとても反応できなかったが、倒れてくる独眼竜の下敷きになる形で、私は必死でその体を受け止めていた。
「独眼竜! どうしたのだ!?」
その体からは一切の力が抜けていた。
重い鎧を起こして、独眼竜の体を私の腕の中にどうにか抱え込む。
・・・呼吸はあるが、意識がない。
「「筆頭!!」」
「政宗様!」
「か、片倉殿っ・・・! これを見ろ! ・・・種子島が・・・」
独眼竜の上半身を抱える私の装束に、じわじわと彼の血が滲んでいく。
出血は腹部から。
あのときの鉄砲が当たっていたのだ。
「片倉殿、甲斐へっ・・・甲斐へ行こう! 早くしないとっ・・・」
「・・・あ、ああっ・・・」
「筆頭っ! そんなっ」
「筆頭!!!」
嘘だ。
独眼竜、独眼竜。
どうしてこんなことにっ・・・。
『アンタいいな。上等だ。』
お前が死んだら、日ノ本はどうなる。
絶対に死んではだめだ。
「幸村様っ・・・幸村様っ・・・おねがい・・・っ」
甲斐へと走る私は、ずっと口に出して願っていた。
─幸村様、独眼竜を助けて。