第1章 奥州に忍ぶ
それは一瞬の出来事だった。
織田の鉄砲隊は、先頭に経つ織田の家臣・明智光秀の合図により、一斉にその威力を放った。
「政宗様ぁ!」
片倉殿は、種子島の飛び交う野原に置き去りの独眼竜に駆け寄っていく。
私は突然のことに動けなかった。
しかし幸運にも、種子島は独眼竜は鎧をかすめただけで、体を貫かれてはいない様子。
─しかし、織田の鉄砲隊は、味方であるはずの浅井長政を容赦なく撃ち落した。
「テメェっ・・・・明智光秀!!」
独眼竜が怒って当然だ。
浅井長政は織田のために、自らの正義をかけて戦ったのだ。
それを、伊達軍討伐のために、自らの手足となって奮闘した浅井軍もろとも背後から・・・
なんて卑怯な奴っ・・・。
仲間の信頼の厚い独眼竜にはおよそ考えられぬことだろう。
肩を震わせて怒っているのがその証拠だ。
無論、絆の深い武田にいた私にだって、とても理解できぬこと。
──戦場は混沌と化した。
種子島に貫かれた浅井長政は、ついに崩れ落ちた。
己の正義を全うしたその生きざまを、独眼竜はじめ、この伊達軍が目に焼き付けた。
しかし独眼竜の怒りは収まらない。
この惨状をつくりだした悪魔のような明智光秀に一矢報いなければ、収まりがつかないだろう。
・・・でも・・・。
私は片倉殿の顔を見た。
彼は私の目が何を言わんとしているのか分かっているようで、またそしてそれに同意していることを表すように頷いてみせた。
「政宗様! ここは退きましょう!」
そうだ。
武田も、上杉も、徳川も。
そして伊達も。
皆、傷ついた。
こんな満身創痍の状態で魔王に挑むなど無謀すぎる。
このまま進めば、織田包囲網は、壊滅だ。
「政宗様!」
「・・・チッ、退却だ!」
伊達軍は尾張に背を向け、一斉に馬を走らせた。