第1章 奥州に忍ぶ
「ぐあぁっ・・・!」
深呼吸をしたあと、相手の急所に一撃を食らわせた。
その感触はあまり好きではないが、仕方ない。
「すげぇや紫乃さん! やるじゃねーか!」
文七郎は私のことが心配だったのか、私が敵を倒したことを確認してから側を離れていく。
どこまでも優しい奴だ。
・・・あれ?
「文七郎っ!」
「・・・へい?」
文七郎の背後に足軽が迫っていた。
そいつは馬の死角になるように動いている。
文七郎は気づいていないが、足軽の刀はきっと馬の上の文七郎の腹部まで届く。
馬に乗ったままでは、気づかないはずだ。
「・・・文七郎! そこを動くな!」
「へ?」
飛び刀を文七郎に向かって振るった。
刃が柄から離れて、彼の方に真っ直ぐ飛んで行く。
近くにいた伊達の兵は、私が文七郎に攻撃していると思ったようで、止めようと怒鳴り声をあげた。
「おい武田! テメェ何してんだ!」
文七郎に刃を向けたと思われているが、私はかまわず続けた。
優しくしてくれた文七郎を、私の前で死なせたくない。
「#name#さんっ・・・? そんなっ・・・」
「私を信じろ! 文七郎! 動かずにそのままでいろ!」
刃が彼の元までとどいたところで、私はひょいっと柄に力を入れて、飛び刀の軌道を変えた。
すると文七郎に向かっていた刃はくるっと向きを変え、狙い通り、馬の足下に隠れていた浅井兵へと突き刺さったのである。
兵から真っ赤な血が吹き出すと、文七郎はやっと自体を把握した。
「紫乃さん、あんたっ・・・助けてくれたのか?」
「よそ見をするな! 伊達は尾張へ行くんだろう!?
文七郎がこんなとこで死んでどうする!」
「・・・紫乃さんっ・・・すまねぇ!!」
私が刃を向けたとき、疑ってしまったことに罪悪感があるのか、文七郎は涙目になって目を瞑った。
そして再び目を開けて、勇ましいその目で、前を見据え直した。
「救ってもらったこの命、何としても尾張まで!」
「その意気だ文七郎! 私も助太刀する!」
今はこれで正しいのだ。
邪魔をする浅井を倒す。
それが伊達の目的ならば、私もそれに従う。
今は仲間である伊達軍を守るために、この刃を飛ばすだけだ。