第1章 奥州に忍ぶ
「・・・政宗様。前方より見知らぬ軍勢が」
片倉殿の言葉に私も目を凝らすと、たしかに前方に、武田でも徳川でもない軍が待ち構えていた。
なぜだ。
ここで伊達を討たんとするのは徳川だけだと読んでいたが、その他にもあったのか?
だとすれば、織田の手の者。
赤と白の甲冑に、あの真っ直ぐな眼差し。
まさか・・・
「わが名は浅井長政! 正義の名において、貴殿を削除する!」
「あぁ?・・・浅井長政?」
独眼竜は目の前の軍を率いる男に覚えがないのか、眉をひそめた。
浅井長政。
たしかに織田の手の者だ。
でも、いずれは織田の包囲網に加勢するよう、お館様が申し入れていたはずなのに・・・。
誰よりも正義感の強き男だと聞いた。
織田の手の内にありながらも、その悪行に加担したいと思っているはずがない、と。
それなのに今、伊達に兵をあげるのはなぜだ。
・・・決まっている。
徳川と同じ。
この男も、織田に屈せねばならない理由があるのだ。
「独眼竜っ! 聞け!」
「あぁ? なんだ忍」
ここで血を流しても、きっと道は開かれない。
双方が傷つくだけだ。
なぜなら、私たちはどちらも、織田の手のひらの上で踊らされているのだから。
「ここで浅井と刃を交えるのは無意味だ! 無駄な血を流すな!」
「ハッ、何かと思えば、よそモンがいつまでも俺に指図してんじゃねぇ。戦が怖けりゃ家に帰って茶でもすすってな」
「ど、独眼竜! 話を聞け!」
「おいくノ一! 政宗様に指図するんじゃねぇ! ・・・邪魔をする奴には容赦しねぇ。それが伊達の流儀だ。黙って見ていやがれ」
片倉殿にまで諌められてしまい、ついに何も言えなくなった。
私が何を言っても無駄だ。
浅井長政が独眼竜に刃を向ける。
二つの刀が交わったとき、関を切ったように、二つの軍がぶつかり合った。