第1章 奥州に忍ぶ
彼も血の気の多い伊達軍のはずだが、物腰が柔らかく気弱な男である。
「どうした文七郎」
「いやぁ、紫乃さん、このままじゃ置いてかれちまうじゃねえか。馬に乗ってくれ」
「なっ・・・」
文七郎は馬の上から手を差し出してきた。
ありがたい、ありがたいのだが・・・ここで乗せてもらうのは気が引ける。
「だ、大丈夫だ。気遣い恩に着る」
「そう言わずに。これから戦に出るってんで、こんなとこでへばっちゃ勿体ねえ。ほら、乗った乗った」
「文七郎・・・」
私はしばらく考えて、そして、文七郎の手を取った。
グッと引っ張られて、私も体を浮かせて彼の後ろに跨がった。
脚がスッと楽になる。
「すまない」
「いやぁ、気にしないでくだせぇ」
「文七郎は優しいな。これから戦場へ出向くという緊張の中でも、私のことまで見ていてくれたのか」
「・・・そ、そんなはっきり言わないでくれよぉ、俺も馬に女子乗せるなんざ初めてで、恥ずかしいんだから・・・」
伊達の者は皆、人情がある。
素直で優しく、そして少し意地っ張りだ。
私は戦がしたいとは思わない。
それでも、この者たちが、傷つくのを黙って見ている気はない。
この身の限り加勢する。
戦場になれば、幸村様をお守りするときとなにも違わずに・・・
独眼竜と約束したのだから。
伊達の仲間に入れてくれと。
それは嘘ではないし、覚悟あっての言葉だった。
何より、この者たちは、もう私と無関係ではない。
私も戦うことになる。
伊達軍として。