第1章 奥州に忍ぶ
軍議は終わり、ついに明日から尾張へ向かうこととなった。
私は夜のうちに配下を使い、お館様の耳にも入るよう手配をした。
甲斐を過ぎたころに幸村様も尾張を目指すはず。
明日発てば数日後には甲斐を通る。
まだ離れて間もないのに、ひどく久しく感じるのはなぜだろう。
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「テメェら! 魔王の首を取りに行くぜ!
覚悟はいいか!」
「「イェー!!!!」」
・・・なんとうるさい軍勢なんだ。
もっと気高く雄々しい出発はできんのか。
走り出してしまった馬たちの波に乗って、私も走り出した。
忍装束は足元に細工があるとはいえ、このまま尾張まで着いていくのは難儀なことだった。
先頭にいるのがお館様や幸村様なら喜んで着いていくのだが・・・。
私は速度を上げて、独眼竜のそばまでにじり寄った。
途中で寄り道をされては困るので、釘を刺しておこう。
「よぉ忍。尻尾巻いて帰ったかと思ってたぜ」
「そんなわけないだろっ、軍に加わることを認めた己の発言を忘れるなっ!」
「相変わらずやかましいな。長旅になるんだ。もっとcoolにいこうぜ」
馬に乗って涼しげに風を受けている独眼竜。
片倉殿も、もう私と此奴のやりとりには慣れたのか、いちいち口を出さなくなった。
私はといえば、この先の長い道のりを思うと、すでに足がもつれてきている。
「どうした! 息が上がってるぜ。アンタはハイキングでもしながらゆっくり来な。」
「う、うるさいっ、これくらい何でもないっ」
そう言いつつも、だんだんと速度は緩んでいき、独眼竜と片倉殿が走る先頭からは離されていく。
仕方ない、飛行忍具を使うか・・・。
・・・いや、これはこんなことのために使ってはだめだ。
「紫乃さん」
馬の波に追い抜かされていき、軍勢の中程のところまで離されてしまったとき、とある馬の上から声をかけられた。
「文七郎!」
よく話す四人組のうちのひとり、文七郎だ。