第1章 奥州に忍ぶ
伊達の経路は、お館様の読みに狂いはなかった。
甲斐を抜けて尾張へ攻め込む。
織田は朝倉への挙兵を匂わせるも、まだ動き出さない。
やはり徳川の動きにさえ気を払っていれば、伊達は尾張へたどりつける。
「筆頭! 出発は明日っすか?」
「当たり前ぇだ。テメェら、久しぶりのpartyだぜ!」
「うぉー!!」
これなら上手くいきそうだ。
すると片倉殿が冷静に独眼竜に語りかけた。
「政宗様。おそらく甲斐の虎の織田包囲網も、我々に合わせ動き出すでしょう」
ギクリ
「どういうことだ?小十郎」
「この伊達の軍勢を先頭に、武田や上杉も尾張を目指すはずにございます。懸念があるとすれば、未だ織田の側についている徳川。織田に命じられ我々の足止めにかかるやもしれませぬ」
な、なんと片倉殿は鋭いのだ・・・。
さすがはこの伊達軍の軍師。
周辺国の動きを適切にとらえ、それでいてお館様と近い考えを持っている。
「No problem.そしたら徳川の首を土産にして尾張へ行くまでだ」
「いえ、おそらく甲斐で武田が食い止めるはずにございます」
「ハッ、あのおっさんも過保護なこったな」
概ね、予想どおりだ。
こちらの考えと違わずに動ける。
すると独眼竜は、黙っている私を一目だけ見ると、挑発するように言った。
「それか、後ろに着いてきやがる武田と遊んでいくのもアリだぜ。あの真田幸村との決着もお預けをくらっちまってるしな」
なっ・・・
「ダメだ!!!」
考えるよりも先に、そう口に出していた。
その瞬間、周りの兵たちは私をなだめたり非難したりとさまざまだが、一番怖い顔をしたのは片倉殿だった。
「政宗様。今武田とやり合うのは得策ではございません。・・・だが、おい、くノ一。政宗様をお諌めするのは俺だけで十分だ。口を出さねぇ約束だろうが!」
「す、すまないっ・・・し、し、しかしっ・・・」
幸村様と決着をつけるのは、今ではダメだ。
織田がどうこうという話だけではない。
私がこちら側に付いている今、武田と戦うのは絶対に避けたい。
「分かってるぜ小十郎。ちょっとしたjokeだろ?」
独眼竜は片倉殿に叱られる私を見て、満足そうにそう言った。
・・・この男、絶対に私の反応を見て楽しんでるだけだ。
本当に腹の立つ奴。