第1章 奥州に忍ぶ
私はこっそりと、庭で刀を振るっている独眼竜のもとを訪ねた。
いつもこの時間は刀を触っている。
刀とともに蒼の袴が揺れ、その動きは乱暴だが美しくさえ感じた。
(独眼竜・・・)
ついその太刀筋に見惚れていたが、すぐにハッとして顔を上げた。
いつも私が甲斐で見ていたのは、燃えるような紅い背中だったのだ。
それは真っ直ぐで何の曇りもない、炎のようにたぎる心。
幸村様はそんなお人だ。
独眼竜は、彼が秘めているものを、その太刀に宿している。
それは決して面(おもて)に表れない、深い蒼の中のひとすじの雷。
まだ独眼竜のことなど、私は何も知らないけれど。
彼はたぶん、そんな人なのだと思う。
私はしばらく、その背中を見つめたまま、立ちすくんでいた。