第4章 恋の残り香
すると途端に眼孔を鋭く光らせる政宗殿。
・・・怒っている・・・。
政宗殿がとてつもなく機嫌が悪くなったのを感じとると、伊達軍の連中はそそくさと先に山を降り始めた。
幸村様は政宗殿に捕まっている私を取り返そうと駆け出して下さったが、佐助様がなぜかそれをお諌めしていた。
「・・・幸村様。先に降りていてください。すぐに行きます。」
「・・・紫乃。紫乃にとっては、政宗殿は束の間といえど共に歩んだ武人にござる。某に気にせず、別れを惜しまれよ」
──別れ、か。
念を押すようにわざとその言葉を口にしたのだろうか、そんな幸村様を政宗殿は睨んだ。
周囲は引き払い、私と政宗殿の二人だけとなる。
政宗殿が心底怒っていたことを思い出しておそるおそるその顔を見上げた。
「・・・そう怒らないでくれ。私は甲斐に帰り、これからも幸村様をお守りする。政宗殿ともきっとどこかで会うだろう。・・・そのときは敵同士だが、戦国とはそういうものだろう?」
諭すような言い方をしても、彼の機嫌の悪そうな表情は直らない。
「テメェは何でそう駄々こねてんだ?」
「なっ・・・駄々をこねているのは政宗殿だろう! だいたいなぜお前についていかねばならないのだ!」
肝心なことは何も言ってくれてなどいないくせに。
こんな風に引き止められても、私は・・・
「何が足りねえってんだ?」
「足りる足りないではない! 私のことなど放っておけばいいだろう! なぜ政宗殿はそんなに私を引き止めようとするのだ!」
「惚れてるからに決まってんだろ」
惚っ・・・
──え?