第4章 恋の残り香
政宗殿、と言われたおかげで、ようやく隣で腕を組んで睨んでいる彼の視線に気がついた。
・・・政宗殿とは・・・なぜだろう、どう接すればいいのか分からない。
「・・・あ、あの、政宗殿、このたびは本当に、おめでとうございます。お館様のご命令とはいえ、政宗殿と共に戦ったことは、私にとって誇らしい時でございました」
目を合わせられず、淡々と祝いの言葉を述べるだけとなってしまった。
自分でも、昨日まで彼とどう接していたのか思い出せないほどに動揺している。
「おい紫乃。なんだその今生の別れみてぇな労いは」
私の態度に納得がいかない様子で詰め寄ってくるが、どうしても目を合わせられない。
・・・今生の別れ、か。
この想いを告げなければ、また今までのように顔を合わせることもないのだろうか。
幸村様の好敵手なれば、また武田に戻れば政宗殿とは敵同士。
「幸村様。甲斐へと帰りましょう。きっとお館様も待っておられます」
私は私の役目を手放せない。
大切なのだ。
武田も、幸村様も。
「紫乃・・・良いのでござるか?」
そう言った幸村様は、すごく複雑な顔をしていた。
決して幸村様だって、私に奥州に留まってほしいなどとは思っていないはずだ。
それなのに、私に迷いがあるから、こうしてお気を遣わせてしまっている。
・・・こんなことではだめだ。
私の中に迷い迷いがあってはいけない。
私に必要なもの、それは・・・
「私には、幸村様が側にいれば、それでいいのです」
──そう言った途端だった。
グイッ
強い力でこの腕を掴まれ、人だかりから逸れるように引っ張られる。