第1章 奥州に忍ぶ
かといいつつも、本当にやることがない。
伊達軍に置いてくれると言ったものの、独眼竜は私に構うわけでも、任務を与えるわけでもなくこうして野放しにしている。
だから私は仕方なく、自分にできることからやってみた。
城下の様子を確認したり、他国の兵が迫ってないか、近くまで配置されている配下の忍に情報をもらったり。
──そんなことをしていると、伊達軍の兵たちとはすぐに打ち解けられた。
特に四人組とはよく話す。
「そんじゃあ、紫乃はあの武田の若大将のことよく知ってんだな!」
「もちろん!幼ないころからお側にいたのだ」
前方にもっこりと伸びた髪型が特徴的な伊達軍の先陣兵・良直。
彼はいつも独眼竜の自慢ばかりしてくる。
「筆頭がライバルってお認めになってんだ。すげーことだぜ?俺もこの目で見てたが、あの槍は相当なもんだ!」
「だろう?幸村様はお強いのだ」
「ま、筆頭にはかなわねーけどな!」
「・・・良直は本当に、独眼竜の強さを信じているんだな。」
「当たり前ぇだぜ!俺だけじゃねえ。伊達軍は全員、信じてついていくのは筆頭だけだ!」
独眼竜は、兵たちの信頼が厚い。
それは伊達軍に混じってからずっと感じていることだ。
兵たち皆が独眼竜を信じ、己の全てを捧げている。
これほどまでに軍を信頼で束ねる力は、私は見たことがない。
・・・幸村様にも。
(なんてことを考えているんだ、私は。)
幸村様が独眼竜に劣っているところがあるなどと、考えてはいけないのに。