第1章 奥州に忍ぶ
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奥州に来て三日。
伊達軍は特に出陣するわけでも軍議を開くわけでもなく、ただ時が過ぎていた。
私にいたっては伊達軍以上にやることもなく、わざわざ奥州まで様子を見に来て下さった佐助様に、今までの経緯を話した。
「お!じゃあ竜の旦那も右目の旦那も、紫乃が奥州に留まることを快諾したってこと?」
「いえ、快諾とまでは言えませんが・・・でも、そうですね、とりあえず認めてくれたようです」
「こっちは真田の旦那が寂しがって困っちゃってるよ」
「ふふ、まさか。幸村様もお変わりなくお元気ですか?」
「元気元気。竜の旦那によけいに闘志燃やしちゃっててさー、かなわないよ」
佐助様は奥州の地を見渡した。
美しい山々に囲まれ、そして穏やかである。
「どう?奥州は」
「はい。織田と対峙してからというもの動きはありません。・・・しかしこの静けさは、嵐の前だとも感じます」
「だよね。どうやら織田は動き出してるようだし、伊達軍もいつまでも療養してるわけにもいかないでしょ」
「はい」
「紫乃。伊達が動いたら、それを先頭に武田も動く。・・・伊達の行く手を阻む勢力あれば、武田がそれを先回りして討伐することになる」
「・・・はい」
「だけどお館様の見立てじゃ、徳川も浅井も織田の手の中。体勢は万全じゃない。・・・だから紫乃、独眼竜を進ませるのは簡単だろうけど、大事なのは退かせることだ。そこを見誤らないように誘導しないとね。」
「・・・あの、佐助様、私はまだあの人を誘導できるような関係にはなっておりません。物申したところで、聞くような奴では・・・」
「だめだよー?そんな弱気なこと言ってちゃ。織田の脅威は、すぐそこまで迫ってるんだから」
佐助様は私に渇を入れただけで、また甲斐へと戻っていった。
私が抜けた分、他国を回るのに忙しくなられたはずなのに、こうして気にかけて下さる。
頑張らなければ。