第4章 恋の残り香
「・・・孫兵衛。今何て言った?」
「だから、姫様になるんだろ? 筆頭の女になるってことはそういうことなんじゃねーのか?」
「だよなぁ! すげーや紫乃さん! これから何て呼んだらいいんだ? 紫乃姫さんか? それとも紫乃姐さん?」
文七郎もケラケラと冗談を言って盛り上がっている。
・・・姫様・・・?
──嫌だ。
そんなものになりたくなどない。
考えたこともない。
だいたい、幸村様と離れて奥州へ行くなどとは一言も言っていないはずだ。
武田の忍として、幸村様のお側にいる。
それが私の役目。
いくら政宗殿のことを想っていようと、その役目を終える気などない。
甲斐を、そして幸村様と離れることなど、考えられない・・・。
「紫乃?どうかしたのか?」
「・・・」
この想いを言葉にするということは、私の未来が変わってしまうということなのだろうか。
今までのようにはいられないのだろうか。
「ほら紫乃! 筆頭と武田の兄さん、戻ってきたぜ! 出迎えに行くぞ!」
「・・・あ、ああ」
──何も変えたくない。
ならばこの想い、告げぬまま、蓋をすべきであろうか。