第1章 奥州に忍ぶ
「政宗様、それはどういうご了見にございますか?」
「せっかくご丁寧に真田幸村の嫁をこっちでもらってくれって押し付けられてんだ。それに乗ってやろうじゃねーか」
「しかし、何の企みがあるか分かりませぬぞ」
「not worry. そいつが俺の背中を切りつけるようなら、小十郎、その前にお前が斬るはずだ。そうだろ?」
「無論。・・・たしかに、こ奴は変な忍にはございますが・・・どことなく政宗様がお気に召される理由も、分かる気が致します」
「・・・ハッ、お前も感じるか?小十郎。
・・・thats right. 似てんだよ、真田幸村にな」
黙って聞いていれば、それはそれは好き勝手に私のことを語られている。
不本意にも主君である幸村様の「嫁」と呼ばれ、独眼竜を切りつける仮定の話までされ、腹が立つことこの上ない。
しかし上手く話がまとまり伊達軍に加わることができる風向きになってきたので、今は冷静に黙っておくことにした。
それにしても、伊達政宗は本当に、幸村様を好敵手として認めているらしい。
・・・嬉しい。
幸村様だけではない。
向こうも同じく幸村様のお力を認めているのだ。
「・・・よく分からないが、私はここに置いてもらえるのならそれでいい。織田討伐にあたり武田は伊達の邪魔はしない。言付けがあれば言ってくれ。いつでもお館様にお伝えする」
「OK. じゃあ手始めに、アンタのことは伊達がもらった、そう真田に伝えな」
この男っ・・・
「うるさいっ! 幸村様とはそういう間柄ではないと言っているだろ!」
また頭に血がのぼってどなり声を上げたけれど、もう片倉殿は刀を抜きはしなかった。
どうやら信用が得られたようだ。
どうなることかと思ったけれど、これでやっと任務を遂行できる。
幸村様。
あなたの言っていた伊達政宗は、思ったよりも失礼で毒のある気分屋です。
・・・でも。
『あんな槍を振るう奴は見たことねぇ。』
幸村様のお力を見出だしていることだけは、悪い気はしないのです。