第4章 恋の残り香
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「おい真田幸村。言っておくことがあるぜ」
「なんでござるか?政宗殿」
伊達政宗は、武田・伊達両軍の先頭を走っていた幸村に追い付いていた。
両軍は山の城を落とすため、広く麓を回りながら攻めのぼっていく。
先頭の二人は、このまま先に城をよじ登ろうと、軍とは別行動となった。
城を駆け上がりながら、政宗は話し続ける。
「俺が魔王の首を獲る。・・・そしたら、紫乃はもらっていくぜ」
「なっ・・・!?」
幸村は思わず馬をグラリと揺らしてしまうほどに動揺した。
気づいてはいた。
政宗が紫乃を気にかけていること。
そして紫乃も、政宗を好いているということ。
鈍感な幸村でも、ずっと側にいたはずの紫乃の見たことのない表情を、見逃しはしなかったのだ。
だから今さらその気持ちを打ち明けられたところで驚きはしないが、まさか政宗が、こんな風に宣戦布告をしてくるのは予想外だった。
「・・・なっ、何ゆえ、そのようなことをっ・・・貴殿は、紫乃を・・・」
「アイツは大した女だぜ。アンタはあれを側に置きながら自分のものにする気はねんだろ? じゃあいいじゃねーか。俺に寄越せ」
その気がないわけなど、ない。
幸村は真っ先にそう思った。
紫乃を好きな理由など、もう理屈ではないのだ。
彼女がいない日常など考えられない。
奥州に拐われていいはずがないのだ。