第4章 恋の残り香
この男が、長曾我部元親。
な、な、な、なんという恐ろしい風貌なのだっ・・・。
それこそ本当に海賊の頭のようだ。
長曾我部元親は私に続いて起き上がると、私に対する警戒を解かずに観察してくる。
周囲にいたガラの悪い連中は、何の脈絡もなく空から降ってきた私に罵声を浴びせ始めた。
「おい嬢ちゃん! アニキはこれから魔王を倒しに行くんだぜ! 何の用があってこの富嶽に乗り込んできたんでぃ!?」
「アニキ! この女、忍装束ですぜ! 敵かもしれやせん!」
わ、わ、どうしよう・・・。
まるで初めて奥州に乗り込んでいったときのようだ。
私はなぜこうもまともな挨拶ができないのだろう。
「あ、あ、あの!私は怪しい者ではなくてっ・・・」
すると、長曾我部元親は、私の頭に手を置いた。
まるで子供をあやすような手つき。
・・・しかし、その大きな手は、ストンと気持ちが落ち着いて、冷静になれた。
「そう慌てなさんな。ちゃんと聞いてやるよ。あんたは何者で、この俺になんの用があって来たんだ?」
・・・ずいぶんと、落ち着いた話し方をする奴だ。
「武田軍の紫乃と申します。此度は無理矢理乗り込むような真似をして申し訳ない。西海の鬼・長曾我部元親殿。もしやこのまま、この富嶽にて織田包囲網に加勢して下さるのか」
「もちろんそのつもりよぉ。安土山に向かうのは観光じゃねぇぜ。一足先に慶次に織田を包囲する策を聞いて乗ったんだが、そうかい、あんたも来てくれたんだな」
・・・なんて協力的な男なのだ。
すんなりと話が進んでいく。
こんな成りなのに、なんて良い男だ。