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本日の業務連絡です

第1章 本日の業務連絡です


しばらくそうしていたが、もう落ち着いたがか、と声がかかっても、幸は顔を上げることができなかった。
「以蔵さんの顔が見れないんです。嫌いとかじゃなくて、うまく呼吸ができなくなって…緊張で 嫌いとかじゃないんです」
自分の顔を好きと言ってくれた相手に不快な思いをさせたくない、でも嘘はつけない。
子どものような素直さを、口から零していく。
「ますくしとったんもそのせいか」
そうです、とつぶやく。以蔵の声は責めるような声音ではなかった。
「困ったのう」
存外と、のんきな調子でつぶやかれる言葉。
「どういたらわしの顔をまともに見れるようになるんじゃろうなぁ」
「う…」
簡単なことだ。でも、以蔵には言えない。
幸はひどく臆病な子だった。この気持ちがそうだと断言できなかった。
しかし以蔵には筒抜けだったのだ。
「あほ」
くん、と俯いた顎を持ち上げられる。
以蔵を見上げる形になった幸は、以蔵の琥珀の眼がやさしげにたゆんでいるのを見た。
「そいつは恋ゆうがじゃ。おまんはわしが好きちゅうことじゃな」
いとも簡単に自分の気持ちを特定されてしまった。
恋という名を持ったことで、幸の気持ちに一気に色がつく。
「ほいで、わしもおまんに毎日会いたい。これも恋じゃな」
言うやいなや、唇が触れる。
幸は、オーバーヒートしそうな思考の中、リップ塗っててよかった、くらいしか考えることができなかった。

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