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本日の業務連絡です

第1章 本日の業務連絡です


「おはようございます」
明くる日の朝。ノックをし、部屋に入る。
瞬間、以蔵から不機嫌なオーラが漂った。
「着けてくるな言うたよな」
やはり怒らせてしまうか。幸は昨日の以蔵の言葉を無視して、今日もマスクを着けてきていた。
「すみません、でもかぜが困るので。引いたら、以蔵さんにもうつるかもしれないし」
もっともらしい理由を並べる。しかし以蔵には通じない。
「取れ」
昨日よりハッキリとした命令の言葉。冷たさを含む声色に背筋が冷える。
しかし、それならば逆に聞き返してやるのだ。
「なんでそんなにこれが嫌なんですか」
「おまんの顔が見えんじゃろ」
「えっ?」
即帰ってきた答えに、即聞き返してしまった。
「わしはおまんの顔が好きじゃて、毎朝見るのが楽しみなんじゃ。朝くらいしか会えんし、少しでも長く見てたいがじゃ。わかったか?」
まさかの、ナナメ上の答えが返ってきた。
まずい、息が詰まる。顔が火照る。
「取りなや」
以蔵の手がすっとこちらにのび、マスクをつまんだ。
「…ッ、やめて!」
とっさに払いのけてしまった。そのままバランスをくずし、転びかける。
尻もちをついても痛くなかったのは、以蔵が抱えてくれたからだった。
「あぶないおなごじゃな…そんなに嫌か」
頭上から降るさみしそうな声。はっと見上げれば、金の眼がすぐそこにあった。
慌てて顔を臥せるも、肺はパニックのように震えている。呼吸のしかたがわからなくなり、はっ、はっ、ひゅう、と浅く息をつく。
パニック状態の幸の様子を瞬時に悟った以蔵はそのまま、幸を抱きしめた。
「びっくりさせちゅうたがか、すまんの。落ち着きぃ」
そのまま大きい手で背中をさすられる。
いつのまにか座敷に座り込む以蔵の膝に抱え込まれるように横向きに抱きしめられていた幸は、あたたかさと背中に優しさに呼吸をあずけることにした。
顔が見えなければ、と言い訳をして。

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