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本日の業務連絡です

第1章 本日の業務連絡です


廊下を歩いていて、すれ違う。
たったそれだけのことでも目が泳ぎ、息が詰まる。
幸には限界だった。

「なんじゃその奇怪なモンは」
岡田以蔵は眉を顰める。
幸はマスターとして毎朝サーヴァントに対し予定を連絡する義務があるし、渡すものがあればもっていかなければならない。そんな今日の朝に、マスク姿で以蔵の部屋を訪れたのだ。
カルデアの外であれば誰もがしているような白い使い捨てマスク。この世の人間ならばなにも違和感はないもの。
しかし以蔵には初めて見るものだった。
「マスクです かぜ予防で」
適当に言って誤魔化す。あなたの顔を見ると呼吸が上手くできなくなってしまうなんて口が裂けても言えない。
「かぜもなんもこんな場所じゃ流行らんじゃろ。取りなや」
嘘かどうか見抜かれたかはわからないが、突っぱねられてしまってはどうしようもない。
嘘の重ね掛けはよくないと知っているが、今ここを切り抜けねばならない。
「あとで取りますのでお気になさらず」
「いんや気になる。毎秒気になる。取りなや」
「では本日の連絡は後ほどします。本日は急ぎの業務は無いので」
「おまんはどいてそう堅苦しいんじゃ。そいつを取りゃあいい話じゃろうが。取って話していけちゃ」
「………………」
埒が明かない。ここでいうことを聞いてしまったら次からはこの手は使えないだろう。
しかし何よりも早くここを去りたい。
幸は仕方ないと腹をくくった。
「…これでいいんですか」
マスクを下げる。
「ん…まあええじゃろ」
やっとだ、と思って話を始める。手の汗がひどい。
来たばかりの以蔵を強くするための種火を少し置いていく。これは毎日しなければならないことだ。
今日はそれに加えフォウ君を少し置いて、説明をし、話は終わりだった。
去ろうとする背中に、
「明日はそいつ、着けてきんようにな」
声がかかる。
…先手を打たれてしまった。

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