第13章 【番外編】ニンギョ×ト×フェイタン
草木を踏み歩く足音が二つ、闇に包まれる森に響く。ふと一つの足音が止まって少ししてからもう一つの足音も止まる。
「おい、何してんだ?」
ふと見上げた木々の間から見える月は綺麗な丸で今夜は満月だと言う事に気が付く。
「忘れ物したよ。先行てるね」
「はぁ!?っておいフェイタン!」
くるりと踵を返して来た道を戻る相棒にフィンクスは肩を竦めて反対方向へ歩いて行く。
※※※
チェリーの店に戻って扉のドアノブに手をかけようとしたら、まだ壊れたままで鍵すら掛かってない事にフェイタンは深い溜息を吐く。
「これ、侵入されても文句言えないね」
まぁ壊したのは自分なのだが。ギィ…と古びた音を立てながら扉を開けると室内は真っ暗で奥の給湯室に最小の明かりが灯ってるくらい。フェイタンも扉を壊した事を多少は気にしてるのか、取り敢えずは外から扉が開かない様に商品である長い槍を罰印に立て掛けて固定する。
「………」
しかしそこで気付くのはコレだと自分が外に出られないと言う事。フェイタンは暫く考えた後、奥の給湯室へ足を進める。確か寝室には窓があったハズだから、そこから出れば良いのだ。
「!」
ギシギシと音が鳴る階段を登れば寝室から薄暗い光が漏れ、鼻孔を擽る甘い香り。少し湿気た空気。
『あーあ…どうして戻って来ちゃったかなぁ…』
不意に開いた寝室前の扉。恐らくシャワールームなのだろう。濡れた髪の毛から水滴が滴り滑らかな肌を滑り落ちる。
ごくり、と喉が鳴る。部屋の薄暗い明かりと窓から射し込む月明かりが映し出すシルエットは悩ましい。妙に光を帯びてる深紅の瞳が狂気的。
※※※
『忠告しなかったっけ?此処は肉食レディの家だって』
暗いとは言え、生まれたままの姿を見られてるのに特に気にする様子も無くタオルで髪の毛の水気を取りながらベットに腰掛ける。
『海に引きずり込まれて喉元抉られても文句言えないよ』
「そんな事するか?」
『………』
「そうは見えないね」
口元まで隠れるマントの襟を正しながら言うフェイタンを暫く見つめた後、観念したように肩を竦める。
『そうね、冗談よ。で?どうして戻って来たの?』
「………店の…扉の………応急処置」
『あー…そう言えば』