第10章 ニンギョ×ノ×ユクエ
守ってくれて有難う。
優しくしてくれて有難う。
愛してくれて…有難う。
貴方達は盗賊なんでしょう?
じゃあまた再会する事が出来たなら
………今度はアタシの心、盗んでみせて。
※※※
『やめてよーっ!』
チェリーの悲痛な叫びが海に響く。その瞬間。朝陽に照らされたチェリーの身体は輝きを帯びる。
「くっ…!こ、れはっ!?」
あまりの眩しさに目が眩んだ時には時すでに遅し。チェリーの小さな身体は飛び込み台から真っ逆さま。その下には今にも捕食しようとしている大量の鮫。
「しまった!鮫は人魚すらも喰らう!バール!」
「無理です!解除してから再発動まで10秒は要します」
一同「チェリー!」
今にも捕食されようとしているのに皆の目には上から落ちてくるチェリーしか映らない。そして気付く。その小さな身体が異常な速度で成長してるのを。
-ザッパーン-
「くそっ!僕とした事が!!!」
蹲りながら床に拳を打ち付ける。
※※※
沈む。深く沈む。拘束された身体は動かない。ましてや神経毒に犯された身体はもっと動かない。運良く鮫の攻撃は外れたけどボロボロの木造ボートは大きさな波で破壊されて海に投げ出される。呼吸も出来ない。
-ぶくぶく-
と気泡をたてながら此方に向かって泳いでくる影を確認する。意識が遠のきつつある霞んだ視界にはそれが何なのかは判別すら出来ないが………恐らく鮫だろう。
-ザパァ-
「げほっげほっ」
『お、生きてる生きてる。ほら人間、目ぇ覚まして』
ぺちぺちと頬を叩かれて意識が戻って来る。重たい瞼を開ければ見覚えの無い女。若草色の絹糸の様な髪の毛。コラールのような桃色の瞳。根拠は無いが人魚だと言うのが分かった。
『これ、ウチの血。飲んだら毒消えるし傷も治るから』
そう言って指先に切り傷を付けると口の中に血液が垂れてくる。少し甘みのある鉄の味。消えて行く身体の痛み。自由になる身体。
-ガバッ-
「どうなった!?」
『大丈夫。貴方達が海に落ちて1分も経ってないから。あ、これウチのペットのボエ丸』
と下を指指す人物を改めて見ると緑のグラデーションの綺麗な尾鰭。上がってるのは陸ではなく…鯨の上。