第8章 ニンギョ×ト×ジョテイ
「あ、そんな深刻そうな顔しないで?自分の一部を食すって言っても鱗とかだから」
でも先程も言った通り人魚が人魚の一部を口にするのは禁忌とされている。勿論それは自分自身でも然りなのだ。
「私も一年くらい前に禁忌を犯した」
『!』
「同じ様に退化したわ…記憶は無くさなかったけど」
『どうやって…戻ったの…?』
不安そうに揺れる深紅の瞳を見て片目しか無いエメラルドの瞳は愛おしげに細められる。そして。
-ガシャン-
と最期の力を振り絞って手錠と鎖を引きちぎるとバシャンと音を立てて水槽の中に落ちる。
『マーミィ姉!』
「大…丈夫………」
高圧電流が流れてる水槽に張り付こうとした手前で上半身を乗り出しチェリーの頬に手を添える。
「私を戻してくれたのはコカレロって人」
一同(彫刻の製造主…!)
「彼が私を愛してくれたから戻った。だから私はお礼に左目を捧げた………でもそれをマリブに逆手に取られてこんな事になってしまって………ごめんね」
『マーミィ姉、悪くないよ』
「大丈夫よ。チェリーはすぐ戻れる………だってこんなにも沢山の人に愛されてるじゃない」
一同「…!」
皆を見るその目はとても嬉しそうで。
「最期を看取ってくれるのがチェリーなんて私は幸せ者ね」
『待って…』
「でも…我儘言うと…姉貴分としては………成長したチェリーを見たかったなぁ………」
ずるり、と力無く腕が垂れ下がり…そして泡になる。
※※※
「チェリー…」
水槽の水に溶けていく泡を呆然と立ち尽くして見るチェリーの肩にマチがそっと触れる。
-ブツッ-
「くくく………くはははははは!!!なんて非情な最期なんだ」
一同「!?」
まるで監視されてたかの様に突如としてスクリーンに電源が入る。画面越しに高らかに笑うのは例の男、マリブ=キュラソー。下劣なその笑い声はあまりにも耳障り。
「彼女は本当によく働いてくれた。おかげで君を見付ける事が出来た………女帝、チェリー=シャネル」
「チェリー=シャネル…それがフルネーム?」
「女帝って何?」
「さっきマーミィも言っていただろ?人魚の中でも階級があって上流階級の人魚しか陸に上がれないって」