第6章 ニンギョ×ノ×キキ
「ヤだなぁ…ただの観光客ですよ。そこのお嬢さんがとても具合悪そうなので心配しただけじゃないですか」
「コイツ殺すね。生かしておけないよ」
「俺に殺らせろ!」
そう言って前に出ると右手にオーラを集中させる。
「ちょ…!馬鹿!ここでそんなの使ったらチェリーの家まで壊れるじゃない」
「家どころか丘ごと崩壊だよ」
「超破壊拳"ビックバンインパクト"!!!」
-ドゴォ-
男を殴り潰す様に地面に打ち付けられた拳は大きな音を立てる………が。地面を覆う氷には傷一つ付いてなかった。
「おいおいおいおい…嘘だろ。ウヴォーのあの破壊力で無傷かよ!」
「危ないなぁ…僕何もして無いじゃないか」
「チッ、避けられたか」
「何してるか、しかり狙うよ」
チェリーを小脇に抱えたフェイタンが溜息を吐きながら言うとウヴォーが煩ぇとバツが悪そうに叫ぶ。
「僕に君達と争う気は無いよ。大きな収穫もあったしね」
やれやれ、と肩を竦めるとくるりと踵を返す。
「じゃあね。また会おう」
首だけ此方に向けるとその怪しい笑みをチェリーに向けて微かに唇を動かす。
『…!待って…』
「チェリー?」
『だめっ!やめて!返して!!!』
-フッ…-
『返してよ!!!』
必死に伸ばすその手は宙を掴む。
※※※
-コツコツ-
「…!」
「やぁマーミィ。調子はどうだい?…って愚問かな」
手首を鎖で吊し上げられ傷だらけの身体と水槽に浸かるボロボロになった鮮やかな尾鰭。
「あぁ、部下が残してくれた痕跡を拾いに行ったついでに現場を見てきたんだ」
手に持っていた香水の瓶を勢い良く壁に投げ付けて粉砕すると仄かな香りが充満する。その匂いに酔いしれる様に目を閉じる。
「ん~………成程。深くフードを被っちゃって素顔を見せてくれないなんて恥ずかしがり屋さんなんだね」
「………」
「でも…君と同じだ。だけど………君より遥かに強い。最高峰の部隊編成でも逃げられる訳だ」
「………、」
噛み締めた唇から血が滲む。
「天候を司る範囲、念でもない氷と風を操る特殊能力………その強さ…間違いなく女帝だね?」
傷だらけの頬に手を滑らせると唇を寄せて口の端に滲む血を舐める。