第5章 ニンギョ×ノ×キオク
覚えているのは自分の名前と親しい人達の名前。
愛してる人達の名前。
何となく分かっているのは、今の自分が本当の自分じゃなくて本当の自分を取り戻さなきゃ何も出来ないと言う事。その為に必要なのは人魚の一部。
※※※
すん、と風に乗って僅かに漂う血の匂い。
「敵襲?」
「いや、そんな気配は無い」
アジトにしている廃ホテルは静寂に包まれている。まだ皆休んでるのであろうと仕事帰りのメンバーは思う。
「一応近辺の様子を…」
-カァカァ-
裏側の方で夥しい数のカラスが羽ばたきながら騒がしく鳴く。ざわつく胸元を押さえ付けて裏側に行くと黒くて小さい何かが地面に伏していてその周りをカラスが飛び回る。
初めはカラスが仲間を弔ってるのでは無いかと思ったが大きさも違うし伏してる何かの隣には見覚えのある傘が落ちていた。
「邪魔だね」
マチが念糸でカラスを追いやってパクノダが銃を構えながら伏してる物体に近付く。
「………子供?」
「持ってるのは…フェイタンの傘だね。チェリーが修理してるハズじゃ…」
横たわる子供をそっと抱き抱える。真っ黒なローブの裾は元はもっと長かったのか引き摺った様にボロボロ。少し出てる素肌は赤から赤黒い血で汚れていた。ただ持ってる傘だけは傷一つ付いてなく綺麗で。
「酷い怪我だな…」
『………、』
「!…まだ生きてる!」
『だ…れ…』
鈴の音の様な声を絞り出す。確認の為、深く被ったフードを退ければ、サラサラと藤色の髪が重力に沿って落ちる。かなり衰弱してるのか薄く開かれた深紅の瞳は焦点が合っていない。
「チェリーと同じ色…」
『その声…パク?』
一同「!?」
『傘………届…けに、来…げほっげほっ』
激しく咳込むと大量の血を吐き出す。
「この感じ…恐らく猛毒のダメージだ。外傷も酷い…早く手当しないと死んじゃうな」
※※※
「ったく何だ今日はぁ…カラスが煩くて目が覚めちまったじゃねぇか」
ボリボリと頭を掻きながら広間に入ってきてドカッと瓦礫の山に座り込む。周りを見れば他の連中も同じ様に起きたのか少し不機嫌そうに各々の時間を過ごす。
「それだけじゃねぇな…微かだが血の匂いがする」
「シズク、お前もしかしてせ…」