第4章 ニンギョ×ノ×ショウシツ
おかしいなぁと首を傾げる。予め家の付近には既に仕掛けてたハズ。既に戦闘になって30分は経過して漸く効力が出始めた、と言ったところだ。
「一応、生け捕りって命を受けてるんですよ。解毒するんで降伏してもらえますか?んでもってそのフードの中身見せて下さいよ」
ふーっと落ち着かせる様に深く息を吐く。
-チャラ…-
とピアスの真珠に触れる。本物の真珠では無く真珠の形を模した強力な薬物のカプセル。
『どうしよっかなー』
「?」
残りの三人を片付けるだけの力は一時的に戻る。だけどその後の副作用が分からないのでリスクが高過ぎるのだ。自らが調合したものなのに使用すらした事が無いので何が起きるかは分からない。
『そもそも禁止されてるんだよ』
「?」
『自分の一部を食べるのは』
こくん、と白い喉が鳴った。
※※※
無我夢中で走った。
地面が近くなる度に軋む身体。薄れゆく思い出と記憶。迫る恐怖を必死で払い除け、ただがむしゃらに走った。何処に向かって走ってるのも分からない。ただ、いつか必ず戻るとアタシの中にある本能的なものが身体を動かす。
『…げほっ』
咳込む度に出てくるのはどんどん変色してきた赤黒い液体。
脇に抱える大きな傘が邪魔に感じるけど、これだけは手放してはいけないと奥に眠る本能が言う。
-ふらっ-
『う…』
霞む視界。遠くなる意識。目の前の建物の窓に反射した朝日がとても眩しくて目を閉じる。
※※※
「ごふっげふっ…あー…マズいですね、これは」
-ジジジ…-
"私だ"
「すみません、ボス。逃げられました」
"何?その為の追撃隊を10人ほど用意してただろ?"
「かなり強い、げふっ…ですよ。全滅です」
"全…滅………最高峰の部隊編成だぞ?お前はまだ大丈夫なのか?"
-パキパキ…-
「いえ、僕も後数分で逝きますね…ごほっごほっ、僕の"メモリーフレグランス"を置いておきます…至急取りに来て下さい…現場に来れば…分かると思い、ま………」
-ブツ-
丘の上に聳え立つは美しくも残酷な氷の地獄。
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