第3章 ニンギョ×ノ×ココロ
『無い…ローブもヘルメットも無いぃいい!?』
「!?」
「………チェリーよ」
「え、マジ?」
「嘘吐いてどするね」
「えぇぇええええ!?」
「煩い、殺す」
※※※
『………』
「機嫌直せよ、チェリー」
ぷいーっと頬を膨らませてカウンターに頬杖を付きながらそっぽを向くチェリーは不機嫌そうにロックグラスに入ったアルコールを飲む。
『なんで不法侵入者に酒をご馳走しなきゃいけないのよ』
「心狭い、駄目よ」
「今度ご馳走してやるから」
『ふん』
手と顔の煤は洗って落とした様でつるんとした肌が珠状の光を帯びる。
「しかし勿体ねぇな」
「………」
ぽつりと呟くフィンクスにフェイタンは目線だけ向ける。
「一年くらい付き合いあるけどずっと素顔隠してたんだぜ?顔に傷でもあるのかと思ってたら、こんな綺麗な顔隠してるなんておかしいだろ」
長い睫毛に縁取られた深紅の目は同じ人間とは思えない輝きがあり、ほんのり色味のある頬。形も血色も良い唇。
まるで人形の様だ、とフィンクスは言った。
『何ぶつぶつ言ってんの?』
「悪口言てたね」
『あぁ、アタシの?そりゃ光栄だわ』
「おい、フェイ」
-チチチ、チチチ-
「「?」」
『あ、時計の音。日付変わった』
アラームのスイッチを切ると店内の照明をギリギリの明るさまで下げる。
『今日は営業してないけど営業終了でーす。ご帰宅願いまーす』
「は!?急すぎだろ!?」
『ここは肉食レディの家。喰われたいならこのまま居てもいいけど?』
ペロリと紅い舌で唇を舐める仕草が毒々しいくらい艶かしくて思わず硬直する。
『なーんてね!昨夜から一晩中トンカチ叩いてたから疲れてるの。寝たいの。それくらいの配慮はしてよね』
「おう…すまねぇな」
『じゃあ昼には番傘届けるね』
そう言って半ば無理矢理追い出した時の笑顔がほんの僅かに崩れていた事に素顔を拝んでばかりの二人は気付かなかった。
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