《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第6章 温泉旅館でときめいて
「なるほどな。今日は記念日か」
ゆめの頭をワシャワシャと撫でてやる。気持ちよさそうに目を細める姿はまるで猫みたいだ。
「エヘヘ。もう一年ですよ?」
「早いな……」
ゆめが俺の手に手を重ねた。
「霊幻さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがと。嬉しいよ」
「本当ですか?」
「本当だ」
好きだ、ゆめ。
おまえと付き合えてよかった。その素直さと無邪気な笑顔に今までどれだけ救われたか。
「この一年ありがとな。次の一年もよろしく頼むぞ」
「はいっ! 任せてくださいっ!」
ゆめの頬にそっと触れる。ケーキももちろん好物だが、こっちはもっと好きだ。
「ゆめ……」
傍に移動しようと腰を上げた瞬間、
「失礼いたします」
また仲居の声がして、襖が勢いよく開いた。
「っ……」
舌打ちして席に戻る。そういえばもう一度来るんだったな。でも、もう少しタイミングを考えろよ、タイミングを。
仲居はゆめの横に膝をついた。
「お客様にお届けものです」
「お届けもの?」
首を傾げたゆめの目の前に花束が差し出された。ピンクのユリと白いカスミソウ。ゆめのイメージに合わせて可愛らしく作ってもらった花束だ。
「一年記念だからな」
俺がつぶやくと、ゆめは目を見開いた。
「霊幻さんが頼んでくれたんですか!? まさか記念日を覚えてたなんて……」
「当たり前だろ」
「じゃあ、さっきは忘れたふりしてたんですか!?」
「ま、そんなところだな」
でもさすがに俺に内緒でゆめもケーキを頼んでいるとは気づかなかった。お互いサプライズし合うとは……。俺たち、発想が同じなんだろうな。
「ありがとうございます、霊幻さん!」
ゆめは嬉しそうに花束を覗き込む。
喜ぶ顔が見られてよかった。
これから毎年祝おうな。一年記念、二年記念、三年記念……一緒に過ごす時間を積み上げていくんだ。
「いいか、ゆめ。花束をあげたことはエクボには内緒だぞ?」
「なんでですか?」
俺はもう一度ゆめの頭をよしよしと撫でた。
「キザだ似合わないなどと散々からかわれるに違いないからな。俺たち二人の秘密だ。さ、早く食って温泉に入るぞ」