第8章 大切な人だから
晃side
ちょうど夕飯を準備し終えた後、颯太さんがタオルを頭に掛けた状態でお風呂から戻ってきた。
髪の先の雫が滴り落ちそうになっていた。
「颯太さん、風邪引きますよ。」
「うん・・・」
タオルを両手で掴み優しく髪を拭きながら俺の目の前の椅子に座った。
タオルで俯いた顔が隠れ表情が見えない。
「うっ・・・ぐす・・・」
一気に想いが湧き出てきたのか、颯太さんは泣き始めた。
「颯太さん・・・無理しないでください。」
「無理してない・・・晃・・・ごめんね。俺の身体・・・汚れちゃったよ。」
「そんな事ないです!颯太さんの身体は綺麗ですよ!」
「ううん。だって・・・あんな事・・・1度だけじゃなくて2度も。」
颯太さんは何も悪くない。
俺がもう少し早く気づいていればあんな事にはならなかった。
「颯太さん、俺は汚いなんて思ってないですよ。寧ろ、助けに来るの遅くなってすみませんでした。謝って済む話じゃないですけど、謝らせてください。」
「違うよ・・・俺に力が無かったからだ。自分の身くらい自分で守らないと・・・」
「彼氏なんですから守らせてください。俺にはそれくらいしかできません。」
「俺・・・他の男に抱かれたんだよ?嫌だって思わないの?」
「嫌に決まってます!でもそれは颯太さんのことでは無いです。」
「嫌いにならないのか?」
「なりませんよ。大好きですよ。どんな颯太さんでも。」
「晃・・・」
颯太さんは再び泣き始めた。
けれどそれは先程とは違って暖かいものだった。
「ありがとう・・・」
「さぁ、冷めないうちに食べてください!」
「うん。」
颯太さんは心に大きな傷を負っている。
俺が治してあげないと。