第20章 覚悟
非情な選択を迫られ、重い気持ちのまま鵜飼は合宿に参加していた。
そして、合宿2日目の夕方。練習終了後、鳥養は合宿所の自販機前で菅原に呼び止められた。
菅原「鳥養さん」
鳥養「何だ?」
菅原「俺ら3年には来年がないんです。だから…」
鳥養「…!」
まさかの直談判に鳥養の顔が強張る。その脳裏には、高校時代ベンチを温めるだけだった自分の姿が過っていた。しかし、その後菅原が口にしたのは予想外の言葉だった。
菅原「一つでも多く勝ちたいです。次へ進む切符が欲しいです。それを取ることが出来るのが俺より影山なら、迷わず影山を選ぶべきだと思います」
鳥養「!」
菅原「な、生意気なこと言ってすみません…大地と旭と1年の時から一緒にやって来ました。一緒のコートに立ちたいです。1プレーでも多く」
鳥養(コイツ…)
菅原「影山が疲れた時、何かハプニングがあった時、穴埋めでも代役でも『3年生なのに可哀そう』って思われても、試合に出られるチャンスが増えるのなら何でもいい」
鳥養「……」
菅原「正セッターじゃなくても出ることは絶対諦めない。そのためにより沢山のチャンスが欲しい。他の3年生にも俺の気持ちは伝えてあります」
迷いのない声で己の決断を鵜飼に伝える菅原。そんな菅原に鵜飼は感服していた。器を小さく見積もり過ぎていた。思った以上に菅原の器は大きく、広く、頑丈だった。
鳥養「…菅原」
菅原「はい」
鳥養「俺はお前を甘く見ていたみたいだ」
菅原「え?」
鳥養「正直、今、お前にビビってる」
菅原「はいっ!?」
鳥養「俺はまだ指導者として未熟だが、お前らが勝ち進むために俺の出来ることは全部やろう」
それが、菅原の決断に最大限報いることだと鳥養は思った。
菅原「お願いします」
意思を酌んでくれた鳥養に菅原が深々と頭を下げた。そんな二人の会話を、少し離れた場所で澤村と旭が聞いていた。
澤村「…気合入れるぞ。一回でも多く勝つ」
旭「おお」
決意を込め誓い合う。菅原はチームの為に身を引いたわけではない。自分も試合に出ることを諦めてはいない。だから、1回でも多く勝ってそのチャンスを作る。
友の決意に報いるために…
「…………」
私は影から菅原たちのやり取りを見ていた、拳を握りしめ何もできない自分に腹が立ったたまま食堂へ行く