第13章 葛藤
再びコートに立った今、旭の脳内には数か月前西谷に言われた言葉が蘇っていた。
『アンタはまたスパイク決めたいって思わないのかよ!』
あの時は答えられなかった本当の想い。けれど、今なら素直に言える。
旭「…思うよ」
西谷「?」
旭「何回ブロックにぶつかても、もう一回、打ちたいと思うよ!」
答えを貰えた西谷は静に返す。
西谷「…それならいいです」
旭「え?」
西谷「それが聞ければ十分です」
穏やかに笑った西谷の顔が次の瞬間一変した。前を向き、深く息を吸い、集中力を高める。緊張感を身にまといボールの動きに全神経を費やす。
西谷(俺の仕事はただひたすら繋ぐこと…空はスパイカーの領域で俺はそこで戦えないけど…)
(西谷さん…すごい集中力……)
日向のサーブがネットインし、嶋田がギリギリ拾って森がカバーする。
森「そこのロン毛の兄ちゃん頼む!」
味方のレシーブが上がる。指名された旭が飛ぶ。ネットの向こう側には影山・月島・田中の三枚ブロックが待っている。
西谷(繋げば…繋いでさえいれば…きっとエースが決めてくれる)
旭のスパイクは3枚ブロックに止められた。しかし、1カ月のブランクがあるとは思えないほど重いスパイクだった。
ブロックに弾き返されたボールがネット間際に落下する。それは時速100キロを超える速さ。しかし、ボールと床ギリギリの間に西谷の手が滑り込みボールを上げた。
掌約1枚。厚さ約2センチ。おそらく同年代と比べても一回り小さい手。ボールと床の間約2センチがエースの命を繋いだ
人並み外れた集中力と反応速度がなければ出来ない奇跡的なファインプレー。西谷が謹慎中ひたすらブロックフォローの練習をしていたと聞いていた田中は敵チームながら「ノヤッさんカッコイイ」と涙を流し感動した。
西谷(壁に跳ね返されたボールも、俺が繋いでみせるから…)
だから…
西谷「だから、もう1回トスを呼んでくれ!エースッッッ!!!」
西谷の魂込めた叫びが旭の心に響く。西谷の繋いだボールは菅原へ。しかし、まだ菅原の心には迷いがあった。
旭「もう1本ッッッ!!!」
旭の呼び声に菅原の身体が自然に反応する。ああ、エースが待ってる。エースがトスを呼んでる。
菅原「旭っ!!」