第4章 【Dtm】Charm
今日のヒーロー基礎学はオールマイトによる救助訓練レースだった。ごちゃついた工業地帯を如何に速く、被害を出さずに攻略するかが問われるレースだ。
巷じゃヒーローによる街への被害が問題になっている。今回の訓練はその対策だろう。地味だが実際のヒーロー活動により近いものだったと思う。
大技が使えるのは余程の敵と遭遇した時か、周りに何もない時だけだ。氷なら溶かせばいいから問題は炎か。
まだ使い慣れていない左手を見つめた。
──早く着替えねぇと。
襟元のファスナーを下ろし、さっさと着替え進めた。ふと、騒がしさを覚え声の方を振り返る。
峰田と他の奴らが何やら揉めているようだ。飯田が忙しなく手を振り動かしている。
「どうした。委員長が困ってるぞ」
「轟も見てみろよこの穴!気になるあの子のあられもない姿を拝むチャンスだぜ!」
壁に開けられた丸い穴を嬉嬉として指差す峰田。制止する周りの様子を見るにどうやらこの壁の向こうは女子更衣室で、つまりは覗き穴ってことらしい。
この向こうであいつも着替えてんのか。薄ら想像して、自分が見るのも他の奴らが見るのも絶対に良くないと当然のことながら思い至る。
「いや、いい。峰田もやめとけ」
「うっせー裏切り者め!轟は毎日と帰ってんだろ!電車でうっかり壁ドンとか満員電車でお触りとかしちゃってんだろ!くっそがああ!」
「?してねぇ」
「しろよおお!」
終始興奮した様子の峰田はなかなか落ち着く気配がない。何を言ってるのかよくわかんねぇ。だが、壁ドンなら最近知った。
芦戸に「轟は素でしそうだよね」と言われたのがきっかけだ。
に、されたら嬉しいのかと聞いたら「場合によるだろうけど、実際好きでもない人にされたら怖いと思う」と返された。
確かに追い詰められているような体勢になるし、何よりは男と触れないように一定の距離を保っている。
その距離を詰められたら怖いと思うのは当然だろう。
「まず聞かねぇと駄目だろ」
壁ドンするにしても、おさわりとやらをするにしてもだ。俺が言うと峰田は盛大な溜息を吐いた。