第10章 振りむいてよサファイア【O×S】
カッコいい恋人の運転姿に惚れ直している隙に、
赤い車は、高い木のない広い場所に出た
ここは……浅間山の…
「この辺りはみんな溶岩が流れた後ですよ」
「ああ、1783年、天明の大噴火だ~
その時は火砕流で1500人以上が命を落としているんだってね~…今はこんなに美しい山なのに…」
「…はい…よくご存じですね~」
「え?…ああ、基礎知識の範囲だよ…」
一瞬、キラキラした目で俺を見た翔くんは、またハンドルを握りなおした
俺は、ガスに覆われた浅間山の山頂を眺めた…
その雄大で美しい姿からは、活火山の名そのままの狂気を剥き出しにして、人々の暮らしに襲い掛かるなんて、想像し難い
まあ、いくら荒々しい活火山でも、そう簡単には噴火することはないだろうけどね…
さっきまでの峠道が嘘のように、北に向かって真っ直ぐに伸びていく道路と、
そこを軽やかに加速するSAV…
翔くんが行ってた、自然の中に溶け込む赤い車…
こういう事かな~?
ってそう思った
……この先に、何があったっけ?
そう思ったその瞬間、
前方にとてつもない存在感で横たわり、俺の視界に飛び込んできたのは、大きな黒い石ばかりの山…
「…すげっ…」
「鬼押し出しです♪」
鬼…押し出し…
ホントだ…まさに…
目の前に迫って来る黒い大きな岩…溶岩だな…
それが積み重なるようにして山のようになっている場所は、さしずめ『鬼が島』…
昔、絵本で観た桃太郎さんが船で向かう島って、こんな景色だったよ…確か
初めて見る物語の世界のような『鬼押し出し』の違和感に、言葉を無くす俺を尻目に、
翔くんは駐車場へ向けて、大きくハンドルを切った
「着きましたよ…お疲れ様でした!」
「…あ、うん…」
先に車を降りた彼を追って、俺もドアを開けて表に出た
澄んだ空気に、大きく深呼吸すると、
さっきまでの残暑が嘘のような、ひんやりとした空気が肺に流れ込んできた