第9章 つんでれアクアマリン【A×O】
「相葉さん、着きましたよ」
遠慮気味なマネの声で、一気に現実に引き戻された俺は、あくびをしながら身体を伸ばした。
「おお、もう着いたの?早いね!!」
「ずっと寝てましたからね~」
「そっか、ごめんごめん。じゃ、ここでいいよ」
「そうですか~?では、明日11時に迎えに行きますんで…」
「オッケィ!お疲れ~♪」
帽子を目深にかぶった俺は、背中を丸めて歩道に下りた。
平日の昼前の青山通りは、ほぼ徹夜明けの人間には、いささか眩し過ぎる。
そのまま、目の前の店のドアを開けると、
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
にっこり爽やかに俺を迎えてくれたのは、『アクアマリン』の店長、櫻井翔くん。
俺とほぼ同じ年だけど、都心の一等地に人気ヘアサロンを構える、腕のいい美容師。
「今日もシュッとしてるね~、翔くん」
「ありがとうございます。こちらへどうぞ」
店に入っていくと、店内に何人かいた女性客から、『ひゃっ』と小さな声が上がった。
俺は声のした方に軽く手を上げ、案内された個室に入った。
ドアの締まる瞬間に聞こえた、『キャー///』という黄色い声に、口元が少し綻ぶのを抑えられない。
「相変わらずの大人気ですね~、相葉雅紀」
「ふふふ、翔ちゃんだって相当でしょ~?今日急に予約取れたのだって、奇跡だもんね♪」
「お陰様で(^-^)」
ほんとにさ。
この人、『イケメンカリスマ美容師』っていうジャンルで、よく雑誌にも取り上げられたりしてて。
ちょっとした芸能人よりも有名人…
その辺の俳優さんよりも甘いイケメンで、独身なんだから…そら、周りもほっとかないよね~
「今日は、どうするの?カット?」
ドアが閉まって二人っきりになると、翔ちゃんは口調も変わった。
「うん。ホントは色も変えたいけどさ~、撮影中だからダメなんだよね…またにしよ~」
「じゃ、毛先揃えて、見た目あんまり変わらない様にしとくね!」
「頼むよ…」