第9章 つんでれアクアマリン【A×O】
【MASAKI】
「ハイ、カァーット!!オッケイ!」
監督さんの声が早朝の街路樹を震わせた。
「相葉さん、お疲れ様でした~」
「あ~、風間ちゃんも、お疲れ~ほぼ徹夜だったからさ、疲れたでしょ?」
「いえ、相葉さんこそ。急いで片付けますんで…」
映画の撮影で、俺は都心を外れた郊外の街に来ていた。
夕べからの撮影の続きで、明けていく早朝ロケが今終わった。
移動車の中で1時間ほど仮眠をとったけど、リアルを求める監督さんの意向で、過酷なロケが多かった。
相手役の女優さんも、若手の中ではNO1の呼びげの高い娘で、現場はいつも程い良い緊張感に包まれていた。
そんな空気も嫌いじゃなきけど、張りつめている分、疲労感も半端ない訳で…
俺はスタッフさんに笑顔で挨拶をしながら車まで来て、後部座席に乗り込んで、シートに深く身体を沈めた。
今日はこの撮影だけで仕事は終わりだったよな~…?帰ってゆっくり寝ようか…
あ……
疲労困憊の俺の脳裏に浮かんだのは…
『そうだ、あそこに行こう…今からでも、いいかな~?』
「お待たせしました!行きましょうか~?」
「ねえ、風間ちゃん、『アクアマリン』に行きたいんだけど」
「え?今からですか?」
「そっ!」
「帰って寝なくていいんですか~?」
「ちょっとさっぱりしたいんだよ…予約できるかな?」
「はあ…」
こんな時間に行くのは珍しけど、敏腕マネの腕と、俺の顔で、何とか予約が取れたらしく、
「少し待ち時間が出来てしまうらしいけど、1時間後に予約は入れました…」
「やった♪ありがとね~。風間ちゃんは俺を下したらそのまま帰っていいからね」
「いや、そう言う訳には…」
「いいのいいの!いつも通り、帰りはタクシー呼んでもらうから。奥さんと子ども、待ってるでしょ?」
「…すみません…」
『アクアマリン』に着いたら起こしてもらうようにして、俺はシートを倒して目を閉じた。