第9章 つんでれアクアマリン【A×O】
いつものように
丁寧に店中を掃除したあと
一人でカットの練習を始めたら
まだ8時過ぎなのに
ガチャリ…と裏口の開く音がした。
「おぉ~(*^^*)やってんな♪」
軽やかに現れたのは店長の翔さん。
「おはよざまぁす…早いっスね」
「ちょっと…残務処理があってね」
それは、嘘だな…
どんなに遅くなっても
俺がカットの練習をする時間になっても
その日のことはその日のうちに
キッチリ終わらせる人だ。
「ブルーボトルで朝メシ買ってきたから食おーぜ♪」
だから多分…こっちがホントの理由。
「どーせ朝メシなんて食ってないんだろぉ?」
優しい人なんだ。
「じゃあ…コーヒーだけいただきます」
「いいから!遠慮すんなって!こっち来いよ!」
ニコニコしながら
嬉しそうに手招きしてくれる翔さん…
もう~…やめてくださいよ…
勘違い、するじゃないすか…
就職の面接の時に
翔さんに『何か言っておきたいこととか
アピールしたいこと、ある?』って聞かれて…
これだけは言っておかなきゃ、と思って。
「俺…ゲイなんです…」
隠して雇ってもらうのがどうしても嫌で
このセリフを言う度に他の店では落とされてきたけど…
翔さんは違った。
「へぇぇ…そうなんだ(*^^)
いま彼氏はいるの?いるなら連れてきてよ♪
もう少し男の客層を増やしたいからさぁ…」
そう言ってカラカラと笑ったんだ。
ズキュン…と。
…撃ち抜かれた、モロに。
あの日から俺は…翔さんに片想い中。
翔さんはノーマルだし
女のお客さんからモテモテだし
見込みがないことなんて
わかりすぎるほどわかってるけど。
深夜まで俺が練習したがってるのを知って
こっそり店の合鍵を渡してくれて。
「好きな時間に練習していいよ♪」
「いや、でも…」
「早く上達させて稼ぎ頭にしたいだけだから♪」
あくまでも
さり気なさを装ったバックアップ。
時折こうやって
差し入れもしてくれて…
感謝を通り越して
ホントに…勘違いしたくなるよ。