第8章 麗しのタンザナイト【M×O】
雅紀の咀嚼音の響く中
ニノがなかなか話し出さないから…
俺はますますもって
嫌な予感しかしなくなり
それを振り払うように明るい声を出した。
「なんだよ~…『ニノ、引退』か?
翔くんにプロポーズでもされた~?」
何の気なしに言ったけど。
雅紀の動きが一瞬
ピタ…と止まって
そしてまたすぐに
もしゃもしゃとサンドイッチを食べ出したんだ。
……え(◎-◎;)……
まさか…
当たっちゃったの…っ?
「……ニノ…?」
「うん……ごめん………」
「…な、に……ごめんて……」
寂しげにゆらゆら揺れてる
ニノの琥珀色の瞳…
「翔が……ロンドンに異動になって……」
「………」
「一緒に…来て欲しい…って……」
「………」
もしゃもしゃ…と聞こえる
雅紀のサンドイッチを頬張る音。
お前は…
どんな想いで
この話を受けとめた…?
「…行くのか?」
「心残りは…あるけどね……」
そう言って
チラ…と雅紀のことを見る。
雅紀は感情を封印するかのように
無心にサンドイッチを食べ続ける
……フリをしていて。
「…お前ら……」
「なんもないよ?こんな…脳みそが筋肉でさ…
お気楽に生きてる鈍感人間となんか…っ…」
いや…(* ̄∇ ̄)
案外…そうでもなくね…?
雅紀が口にサンドイッチを突っ込んだまま
ニノのことを見開いた目で見てる。
んで何か言おうと
急いでモグモグして飲み込もうとしている間に
「とにかく…!そういうわけで…
俺はここを辞めなきゃなんないから…」
「そ…っか………」
「…ごめんね、おじさん……」
雅紀の気持ちを考えたら
『おめでとう』というわけにもいかず
俺はただゆるゆると
首を横に振った。
いや…
つか、そもそも……
『おめでとう』…なのか?
俺にはニノの気持ちも
揺れ動いてるように見えて…仕方ないんだけど。
『ホントにお前は…それでいいのかよ?』
聞いていいものか、どうか……
ニノが一人だったら。
この場に雅紀がいなかったら。
迷いなく聞くのに…
『ニノ…お前、もしかして…雅紀のこと……』