第8章 麗しのタンザナイト【M×O】
「…俺、『おおのさ とし』…って女性だと思ってた…」
「ふふふ、だよね~、みんなそう思ってるよね…」
「智さんが、こんな有名人なんて、なんか、俺…」
「あ~!!『おおのさ とし』の新刊出てる!」
俺たちの横にやって来た女子高生の二人組…
たった今、智さんが指差したコミックを手に取った。
「ホントだ!やった~♪」
「ねえ、読んだら貸してよ!」
「うん♪この二人の空気感、いいんだよね~♡」
「エッチシーンも、たまんな~い♡
なんか、キュンキュンするよね~」
………
真横で褒められて、智さんは赤くなってる。
その隣で、女子高生二人が、
俺たちをじろじろ見てる…
あ、もしかして、智さんの正体がバレた?とか…
智さんは、その視線に気付くと、
俺の手首を掴んで、その場を足早に離れた。
手首を掴んだまま、ずんずん歩く彼に、
抗うことなくついて行く…
「はあ…もういいか~…」
「智さん!あの子たち、智さんが『おおのさ とし』だって』気付いたんですかね~?」
「そうじゃないよ…」
「ふえっ?」
俺の手を離して、振り返った智さんは、苦笑いしながら、
「BLコーナーに二人で並んでで、変に思ったんだよ」
「変に…って?」
「だから~、俺たちもゲイカップルかな?って…」
「あ……」
そっか…そう言う目で見てたんだ…
「俺は一切媒体に顔を出してないから、
バレることはまずないよ…それより…」
智さんはふっと視線を反らして、
「潤くんが誤解されちゃって…ごめんね?」
もうし訳なさそうに眉を下げた。
それからまた、二人で食品や日用品なんかを買い込んで、エコバックを持ってマンションまで帰って来た。
「疲れましたよね~?今、コーヒー入れますね」
「あ、うん…」
食料品ををさっさとそれぞれの場所に片付けて、俺は買って来た豆をひいた。
その間智さんは、仕事部屋に入ってしまった。
コーヒー……一緒に飲まないのかな?
そう思っただけなのに、俺の胸は、なぜだかキュンと音を立てた。