第6章 青春のシトリン【N×S】
今この人、何言った??
やっと話し掛けてくれたと思ったら、
なんか、どんでもない事言ったよね!?
………
「追いかけて来たんでしょ?翔くんのこと…」
俺は、当たり前の顔して、
びっくりネタをブッ込んできた美術教師の横顔を、穴が開くほど見つめたまま、
何も言えないでいた。すると、
「現役のことから、そうかな~、って思ってたんだ。でも、この高校に来るって、翔くんから聞いて、確信に変わった…」
「かくしん…って…」
「ずっと好きだったんだね?翔くんのこと」
「いや、俺は、そんな…」
ふにゃんとした捉えどころのない笑顔のこの人に、ズバリと核心を突かれて、
俺は心臓が止まるかと思った。
「べ、別にそんなことは…ここに来たのだって、
たまたまだし…翔くん…じゃなくて、
翔ちゃんとは、そんな…」
「上手くいくといいね♡」
…………(;一_一)
この人……
知ってたんだ。
俺が翔ちゃんのこと好きだってこと。
知ってるくせに、
自分は当然の顔して翔ちゃんの横で笑ってた。
他に知る人も無い、
他の大学のコンパにのこのことやって来て、
翔ちゃんに守られて、
そこにいたんだ……
立ち止まって動かない俺に、
大野智は振り返って声を掛ける。
「この角は?どっち行くの?」
………男に小悪魔って言葉を使っていいのか分かんないけど…
小悪魔がいけないなら、悪魔か?
こんな、何も分かってないみたいな、
無邪気な振りして…
俺を笑ってたんだ…
どんなに好きでも、
翔くんは僕のものだよ?って…
心の中で、俺のこと笑ってたんだ…
………
「ここ?へえ~、いいじゃん、高校からも近いしね」
そう言って大野さんは笑った。
翔ちゃんと別れたって…
翔ちゃんがOBの飲み会で笑って言ってたから、
それに飛びつくようにここに来たけど、
俺……
間違いだったのかな??
この人が一緒にいる、この場所に、
近付いちゃいけなかったのかも……