第6章 青春のシトリン【N×S】
「そう言えば、引っ越しの片付けは終った?」
「うん、実はまだ…」
「じゃ、俺手伝いに行こっか?」
「え~?翔ちゃんに手伝ってもらってもな~…」
「あ、この~///言ったな!それじゃあ、俺が片付け下手みたいじゃん!
「だって実際下手だし…痛たたたっ///」
久々に、翔ちゃんとジャレて、もう俺は舞い上がりそうなほど嬉しかった。
そして、美術室の前……
この奥に…
「智く~ん、いる~?」
翔ちゃんは、躊躇うことなくドアを開け、
中に入っていく。
「あれ?いないな…ってことは…」
美術室の奥にあるドアを開けると、
そこのデスクに俯せて、その人は眠っていた。
幸せそうに、少し微笑みながら…
相変わらず、綺麗だな…
「こら!サボり魔!」
「あ、痛てててっ」
翔ちゃんに耳を引っ張られて、
目を開けたその人は、俺に気付いてにっこり微笑んだ。
「あ~、今日からだったよね?ニ宮先生♪」
「よろしく…お願いします…」
「何だよ~?硬いな~、二人…
知らない仲じゃないじゃん!」
知らない仲だよ…ほぼ…
そう。
大野智は、大学の時、翔ちゃんの恋人だった。
バイト先で知り合ったとかで、
俺にも紹介してくれたけど…
人目も憚らずイチャイチャしてた。
もともと翔ちゃんも、この高校の美術教師になった大野さんを追いかけて、この高校に来たんだ。
そして、その翔ちゃんを追いかけてきた俺…
だってさ。
ふたりが別れたって……
そう聞いて…
居ても立ってもいられなくって。
ずっと片想いしてた大好きな人、
忘れられない人を追いかけて、教師になんかなったんだ。
大学時代、俺と翔ちゃんはテニスでダブルスを組んでいた。
自分で言うのも何だけど。
インカレでもいいところまで行くくらいの腕前で。
息もぴったり…
そんな翔ちゃんを好きになった俺は、
大野さんを熱い眼差しで見つめる翔ちゃんを、ずっと見て来たんだ。