第7章 単純で曖昧で
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アルコールと淡い香水が漂う中
口紅の付いたグラスを片付け
ケトルを火に掛ける
丁寧にミルで豆を挽き、フィルターに移して
お湯が沸いたら、ケトルを一旦濡れたダスターに置いて数秒
細くゆっくりとお湯を注ぎ蒸らすと
コーヒーの香りがふわりと漂う
“……ふぅん。
けっこー、簡単だね”
“じゃ、やってみろよ”
“え~?
メンドクサイ!”
“簡単なんだろ?”
“ん~
でもさ?俺のが美味くいれれたら、
センセの出番なくなっちゃうじゃん”
“お前なぁ”
“いいじゃん。
俺、好きなんだよね。
センセがコーヒー入れてるとこ見るの”
コーヒーの香りに包まれて……
思いだすのは、
なんてことないやり取りばかり
「マジで
タチ悪いっ…つーの」
一人分のコーヒーを手に、ソファーに戻ると
今度は、綾子の言葉が頭に響く
相手が女…だったら
手放したのが、
アイツじゃなかったら
今まで、どれだけの人と関係持ってきたか……
一度きりもあれば、数年ダラダラと付き合う事もあったし
櫻井先生が気になってからは、
こんなんじゃ駄目だって、身辺整理始めて……
そんな頃だった
チビで生意気で、
メンドクサイアイツに出会ったのは
素直じゃないのに、
バカみたいに真っ直ぐでさ?
想像すら出来なかった
そんな、ガキに
俺が夢中になるなんて
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