第6章 サヨナラのあとで
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ヒールの分だけ、俺より背の高い彼女の手を取り
雑踏の中に溶け込んだ
軽く握った彼女の手が、意味深に握り返される
「楽しみねぇ。
どんなエスコートしてくれるのかしら♪
誘われるなんて思わなかったわ」
クスクスと笑う横顔は、
明らかに俺をからかってて
「……悪かったよ。
利用なんかして」
「あら♪別にいいのよ。
ちゃあんとお礼してくれたら(笑)」
「お金ないし」
「そんなの要らないわよ。
部屋に来るんでしょ?」
そんな気ないって、わかってるくせにって
繋いだ手を離した
「冗談よ。
一応、旦那様もいるのよ?私」
「あ…、そっか」
「でも。せっかくだから、お茶しましょうか」
彼女に連れられ入ったカフェ
ドアを開けた瞬間から香る、香ばしい匂いだけで
頭に浮かぶ人影
まだ仕方ないか
そんな簡単だったら、一緒にいた意味さえなくなってしまう
「何にする?」
「え…と」
「ジュースじゃなくて、コーヒーが好きだったかしら?」
「……ジュースでいいや」
「……そう?」
代わりにオーダーしてくれた彼女をぼんやり眺めながら
自然とため息が漏れた
「同じね」
「あ…?」
華奢な煙草に火を点けながら、
わかりきったように笑ってる
「潤も、アナタと同じ顔してたわよ」
運ばれてきたオレンジジュースのストローを口に咥え
視線を逸らす
「お互い好きなら、
どうして別れるのよ。
理解出来ないわ」
カップを傾ける彼女に、目だけ向けて
開きかけた口を噤んだ
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