第5章 イロナキセカイ
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ポケットに突っ込んだ手
触れた感触に、ギュッと握り締める
見上げたマンションの一室
明かりはまだ、ついてない
ここに来て、俺はどうすんだよ
突き放されたのは、たった数時間前の出来事なのに
答えも正解もわからないのに
気付いたら、ここに来てた
ふらふらと家に帰って、ゲームの電源を付けても
集中なんか、出来なくて……
難解なRPGみたいに、迷走したまま
わかってるよ
センセは俺のために、嘘ついたんだろ
"本気じゃなかった"なんて、
もしホントなら、どんだけ演技派なの
鬱陶しいほどの愛情を、
あの人は…どんだけ俺に…
目立つ場所に居たら迷惑だからと
言い訳みたいに言い聞かせて
オートロックを解除し、足を踏み入れた
乗り込んだエレベーターで上昇しながらも、考えひとつ纏まらない
ドアの前、見慣れたナンバー
いつもなら、躊躇なく鍵を差し込んだドアも、無機質で冷たくて
そんなこと、感じた事もなかったのに
ぺたんと座り込んで、膝を抱えた
上目遣いで見上げた空は、星がやけに綺麗だった
「……さぶっ」
シャツにパーカーを羽織っただけじゃ、鳥肌が立つ
まだ…帰って来ないかな
"わりぃ遅くなった!
腹減ったろ?"
"だからお前は細っこいんだよ。
ほらっコレも食え"
"転た寝すんな。風邪ひくぞ"
"なぁ…たまには素直にコッチ来いば?"
"めんどくせぇな。
あーもういいよ"
"俺が、
そっち行くから"
照れ隠しの生意気な態度も
全部、全部
ひっくるめて、想ってくれんのが、センセだろ?
ちげぇの?
足音が近付くのに気付いて
ゆっくりと首を傾げた
「カズ…」
冷たい瞳
センセの後ろには、彼女の姿
「なんでココに?
ああ、鍵返しに来たのか?」
冷たい声
「わざわざ、悪かったな」
差し出された掌
握り締めたスペアキー
冷えた尻を、ジンジンと痛く感じながら
堪えた涙のせいで、どうしても睨んでしまう俺に
センセは、
気付いてるでしょ……?
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