第1章 相変わらずな俺ら
どれだけ時間経ったかな
話し声と物音も聞こえなくなって
さっき聞こえたドアの音は、センセのおかーさんが帰ったんだって確信する
だけど……
動けなくって、黙って膝を抱えてた
ガタンと響いた背後から、
柑橘系の香りが漂う
センセの部屋のアロマディヒューザー
俺が、イイニオイだって言ったら、いつもつけてくれてる
「カズ……」
開かれた戸から、窺うような気配
センセの声が、
遠くから聞こえるみたい
「悪かったな……もう帰ったから」
言わなくたって、
わかってるよ
「カズ?」
ゆっくり振り返り、センセを見上げる
「にゃぁ~ん……」
じとっと、センセを睨むように見つめた
「何だよ。怒ってんのか。
仕方ないだろ?ああでも言わなきゃ…」
わかってるよ
そんなのわかってる
ただ、この部屋に居ちゃ不自然な俺より、
それならさ?
"猫になりたい"
そう、一瞬でも思ったなんて、口が裂けても言えない
「ほらっ、拗ねんなって」
仕方ねぇなって、近付いたセンセが、
石みたいになった俺をヨイショと運ぶ
抱き抱えられたまま、センセの胸に顔を埋めた
ぐりぐりと鼻を擦り付けた俺に
"ホント猫みたいだな" って、センセはクスリと笑った