第1章 相変わらずな俺ら
最初は無視してたセンセも、
あまりにしつこい呼び出し音に、動きを止める
"ジュンいないのーっ?"
確かに聞こえたその声
センセの顔色がますます変わる
「センセ…?」
"ジュン~?いるんでしょ~?"
そして、
"ガチャガチャ"と響いた音に、
さすがに俺も飛び起きる
「マズイ!オフクロだ」
「スペアキー?」
「緊急時用に渡してたやつだ」
あーって、舌打ちして、放ってたシャツを羽織ってる
呆然とする俺に、
隠れろと指示して、ベッドルームから出てった
ちょっ…!
隠れろって!?
咄嗟に開けたクローゼット
隠れるスペースなんて、開いてねぇし!
とりあえずシャツを掴んで、ベランダに飛び出した
初秋の涼しげな夕方に感謝
ウッドチェアーの脇に屈んで、カーテンの隙間から部屋を覗いてみる
へぇ…やっぱ似てんな
目鼻立ちのハッキリした美人だ
大きな包みをテーブルに置いて、なんか話してる
センセ、えらく不機嫌な顔しちゃって
それもそっか
正直、俺だって
こんな中途半端な状態で参ってる
シャツに腕を通し、
ボタンに手を掛けた時、ついたばかりの赤い痕に気付いた
それだけで、センセのヤラシイ顔が浮かんで、身体が疼いてくる
鎮まりつつある中心も、反応を示して…
ヤバイだろ、変態じゃん
ぺたんと、コンクリに尻をついて頭を抱える
俺、何やってんだろ
薄暗いベランダからの景色は、
少し寂しげで、余計な事を考えさせる
隠れなきゃいけない存在なんだって、急に思い知らされて
ぎゅっと抱えた膝に力を込めた
静かなせいで、
所々聞こえる、ふたりの会話
"そろそろ"
だとか
"イイコなのよ"
たった、それだけで
話の内容なんて丸わかりだ
「さぶっ…」
火照った身体が、急な気温差についてけなくて、思わず身震いした
出かかったクシャミを止めようと、
咄嗟に塞いだ掌が椅子にぶつかり、ガタンと音を立てる
"何の音?"
センセのおかーさんの声が、
ベランダに投げ掛けられる
慌てて息を潜めた俺に、センセの声が響いた
「たぶん猫だろ。
隣の猫がたまに来んだよ」