第15章 【岩泉】ENDLESS SUMMER
『行こう、及川くん···』
及「ちゃん!」
少しずつ離れて行くふたりの後ろ姿をボンヤリと眺めながら考える。
オレが名前呼びにしたのは、付き合い出してからだ。
昔に戻る?
じゃあ···
「!···チッ···」
声を上げても既に近くには姿はなく、見えるのは人混みだけ。
「···帰るか」
誰に言ったわけでもなく呟いて、オレはその場を後にした。
家に帰ってからもずっとの事ばかり考えていた。
あの後、本当に及川と?
まだ···及川と?
イラつきながらもスマホを握り、アドレスを開く。
そこにの名前を見つけ···指を置く。
「関係ねぇよ、な?もう···」
ベッドにスマホを放り投げ、試合のDVDでも見て研究すっか!と気持ちを切り替えようとテレビの電源を入れる。
やがて映し出される映像を見ても、ちっとも頭に入って来なくて。
代わりに浮かぶのは、最後に見たの···顔。
こン時の試合、見に来てたよな。
試合の合間に声掛けてくれたり、差し入れくれたり。
考えないようにすればするほど、頭も心も···で埋め尽くされていく。
プツン···とテレビを消して、ゴロンと床に転がればオレの顔を真上から覗く見慣れた茶髪。
及「やーっぱり、オレの想像通り!」
「テメェ···いつの間にいやがった」
及「さっきからいたよ?岩ちゃんがエッチなDVD見ながら鼻の下びろーんって伸ばしてた辺りから」
「伸びてねえし、そんなモン見てもねぇよ!いい加減なこと言うな!」
及「隠さなくたっていいって···ちゃんのこと考えてたでしょ?」
真っ直ぐな目で、及川がオレを見る。
「さぁな···」
コイツにそんなこと言ったら、後でどんなネタにされるか分からねぇ。
及「やった!オレ正解!」
「だから違うってんだよ!」
及「岩ちゃん?岩ちゃんがそういう時って、だいたい正解の事なんだよ。知ってた?」
フフン、と鼻で笑いながら及川はおかしなポーズを取りながら壁に寄りかかった。
···なんか腹立つな。
「なんの用だ。用があったから来たんだろ。つうか、勝手にオレん家に入るなよ。泥棒かてめぇは」
及「バレた?そう···オレは人呼んで、恋泥棒」